ある長者の話
文 つっきん

ある長者のお話だ。

ものがいくらあっても「まだ欲しい、まだ欲しい。」
欲しい欲しいのごうつくばり。

お金があるから あれもこれもと買いあさる。
働きもせず 茶碗に、お櫃、茶壺に、茶釜。
ちょいとよさげなものならば、着物に、反物、かんざしを。

必要不要ありゃしない。
箪笥、長持、天秤、金箔入りの障子紙。

金はあるだけ使い放題。
そりゃ、あっという間になくなるさ。

だけど、こいつは根っからのごうつくばり。
「まだ欲しい、あれも欲しいし、これも欲しい。」

さてさて、どうやったら手に入る?

なんと、なんと。

夜、人々がひっそり寝静まってしまった頃・・・

もそもそもそもそ動きだし、
そぉぉっと人様の家に忍び込み、
抜き足、差し足、忍び足
手当たりしだい盗ってくる。

吸いもしないキセルに、使いもしないおしろいまでも。

夜だけではない。
昼間だって、心がむずむずしてくれば、手までむずむず動きだす。
とうとうお寺の観音像や、鬼瓦までえっちらおっちら盗ってくる。

お金なんかとっくのとうに すっからかん。
なのに、長者の家の中
ものがどんどんどんどん増えに増え
家の中はものだらけ。
床から天井に向かって、おっかなびっくりあぶなっかしく積み上げられて。
さりとて人には決して触らせない。
すべてが大事なお宝だ。
まだまだ欲しい、まだ欲しい。

「おかしい、おかしい。長者どんはおかしいぞ。」

村人達は、ひそひそひそひそ ささやきあった。
長者の耳にも届いてきたが
「わしは、長者だ。物持ちなのが長者というもの。それのなにがわるい!」

あんまり威張りくさるので、だぁれも長者の屋敷に近づくものはいなかった。

ある日のことだ。
長者は屋敷の敷居につまずいて
「おっとっとっと、とっとっと。」

頭がごちんと箪笥に・・・箪笥にごちんと、頭がごちんとぶつかった。

ガラガラガラッ

とてつもなく大きな音を立て
おっかなびっくりあぶなっかしく積み上げられていた物という物がいちどきに、
どっさどっさと落ちてきて
ぺっしゃり長者を押しつぶしてしまった。

しごく簡単。長者はあっさり死んでしまった。

さてさて、話はまだ続く。
長者は死んだと同時にあっさりゆうれいになるわけだが
ゆうれいになったからといって、ごうつくばりは治らない。

なんと
「天国へ持てるだけ持っていこう。」と考えた。
ところが
観音像を掴もうとしても、するりと腕が抜けてしまう。
大きな長持しょおうとしても、するりと身体が抜けてしまう。
せめて中身だけでもと蓋を開けようとするけれど、両腕むなしく空回り。
これはいったいどうしたことだ?

やがて身体が ふうわりふわり ふわふわふわわ
勝手に ふうわりふわり ふわふわわ

壁をするりとつきぬけて
垣根をするりとつきぬけて
空にむかって ふわふわわ

「おぅい、おぅい、たすけておくれー。」

いくら 長者が声をあげて叫んでも
だれの耳にも 届かない。
あわれ、だれにも見えぬ 長者の姿。 
死んでしまった人のたましいは、普通の人には見えぬもの。

ふわりふわりと 舞い上がり、
長者は空にぽっかり口を開いた 死人の道へと消えてった。

長者の前に とうとうと、三途の川が現れた。

長者はがっくりひざついた。

あんなにお宝あったのに
死んだらなにひとつ持ってこれはせぬのかと、
今のわしには 金もなければ 連れもない。

ぼとぼとあふれる涙は
三途の川に流れゆくだけ。

さぁさ、長者は立ち上がるしか術はない。
天国地獄行くのはどっち?
三途の川の言うとおり・・・。


*おしまい*

©tukkin/sayako 2005.4


おはなしTOPへ

つっきんの童話屋さん
゜*.★・*.゜☆