バク 

文 つっきん


バクは夢を食べる動物です。

夢は夢でも、悪魔のような悪夢をね。

ある日、バクがトコトコお散歩していると、
ひとりの女の子に会いました。

両耳の上でピッとくくられた髪。
(真横にピンピンツンツンしているよ)

つり上がってる大きな目。

なぜだかそばかすまでツンツンしてるみたい。

「あんた バクでしょ?夢食べるんでしょ?」

「ああ、まあね。」
いきなりなんて失礼な子だろうとバクは思いましたが、
失礼のないように返事をしました。

「しかも、悪夢。どんな味がするの?」
「そうだなぁ、人間でいうステーキみたいな味かな。」

「あたい、ステーキなんかだいきらい。」
「それは失礼。でも、とろけるほどおいしいのさ。」

「じゃ、あんたにあたいの夢食べられる?」
「おやすいごようさ。悪魔のような悪夢なら。」

「じゃあ、言う。」
女の子の目がぎらっといじわるく光りました。

「あたいの悪夢はね、あんたに食べられた夢!」

あちゃー。なんてことだ。

そのとたん、
バクと女の子の間に、もこもこ現れたのは
ところどころ七色に光る透明なやわらいカプセル。
その中にいるのは、
まぎれもなく、たらふく食べてやったぞという顔で
舌なめずりをしているバクだった。

いつもなら、
ゾウに似た鼻でそのカプセルをくるっとかかえ、
ずずずずずーるとすい込むように食べてしまうだけ。

だけど、だけど。

バクは頭がこんがらがってしまいました。
大地と空がひっくり返ってみえたくらい。

ボクがボクを食べる?

女の子の目は、いよいよつり上がって
バクと悪夢のバクをぎゅうっとしばりあげていました。

助けてくれ!

ボクはボクを食べられない!

バクは覚悟を決めました。

「ごめんよ。こればっかりは食べられない!けれど。」

バクはふぅっとひといき はきました。

「今からこの夢うめるから!」

バクはトラに似た足で、ざっくざっくと地面を掘りました。
大きく大きく、できるだけ大きく深く。
よし。
それから、
悪夢のバクをドン!とその穴へ突き落としました。

相手はふわんふわんのカプセルの中。どうすることもできません。

「な・な・何をするーーーー!」
さけび声だけがもわんもわんひびきました。

その時、
女の子がぬっと右手を出しました。

「これもうめて。」

それは小さな黒い種でした。

バクは、だまって受け取ると、
ぽいっとその種もうめて、

どうにかこうにか

ふひぃぃ、おわった・・・汗もボタボタながれます。

あのなまいきな女の子は・・・?

小さな背中がうずくまっていました。
何をしているのかと思ったら、

手には小石が3つ。
ちょっと大きいのと、中くらいのと、小さいの。
それを悪夢のバクをうめたところに積み木を積むみたいに
大きいの、中くらいの、小さいの、と そぉぅっと おいて、

「お墓。」

ぼそっと言って、手と手をあわせてお祈りしました。

お墓かぁ・・・バクはしみじみ思いました。

するりと静かな風が吹きぬけました。

バクは言いました。
「ごめんね。」

女の子は目をきゅっとあげて言いました。
「いいよ。」

それから、「じゃあね。」「バイバイ。」

バクはまた、トコトコ歩きはじめました。
いやぁ、とんでもなかったと思いながら、

なぜかちょっぴり スキップしながら。



                ☆

              
さて、

こちらは土の中にうめられちゃったバクです。

ふわんふわんのカプセルの中であっぷあっぷ。
こいつをやぶれば外に出ていくことができるのに!

ジタバタしながらまわりを見まわすと、

じーーーーーーー、ぽんっ!
じーーーーーーー、ぽんっ!

小さな黒い粒のあたまとおしりから
白いものが飛び出して、あたまの方はぐん!と
地面から外へのびていきます。
いっしゅん、
ピカッとちいさな光がバクの目をチカッとさせるのでクラッとします。

これだ!

悪夢のバクの目の前にも、黒い粒がありました。
あの小生意気な女の子が「いっしょにうめて」と言った種。

「おい、おまえ。」
悪夢のバクは種に話しかけました。

「おまえ、オレもいっしょに外へ出せ。
でないと、おまえをのみこむぞ。」

「わかりました、わかりました。
では、わたしをしっかりだいててくださいな。」

「よろしいですか?いきますよ、いきますよ。」


さて、

こちらは例のツンツンした女の子です。
夢のバクをうめたところにじょうろでお水をまいて
時々、こうして悪夢のバクのお墓まいりをしています。

もこもこ。

地面がゆれました。

「バクーーーー!バクーーーーー!」

女の子が大きな声で呼ぶと
すぐにあの日のバクがやってきました。

「ひさしぶりだね。どうしたの?今度はちゃんと食べられる悪夢?」
「見て。ほら。」

もこもこ。
もこもこ。

ぴこっ。

「あ・・・」

出てきたのは、バクの鼻。
さきっちょに、ちいさな黒い種から出たちいさな緑色の芽がついています。

ずざざざざぁとよっこらせ。

「ふぃ〜。やっと出られたぞ!」


悪夢のバクが よみがえったぁぁぁ!


目をまるくしているふたりに よみがえった悪夢のバクはこう言いました。

「よお、おまえたち。よくも おれさまを うめてくれたな。
でも、
おかげで、こうしてほんもののからだが 手に入ったぜ。」

「あんた・・・あたいを食べるつもり?」

女の子がキッと目をつり上げて、ちょっと肩をふるわせながら聞くと、

よみがえったバクは、横目でちらんと女の子を見ながら

「おれさまは なまものは きらいだ。」

と 言いました。

バクはハッとしました。
そうだった!
ぼくたちは、なまものは きらいだ!

「ごめんよ、きみをうめる必要はなかったのに。」
バクはよみがえったバクに心からあやまりました。

「なぁに、あのとき おまえさんにカプセルのまんま食べられていたら、
こうして ほんもののからだを手に入れることはできなかったさ。
それともなにかい? 
おれさまが、
おまえさんの腹の中でおおあばれしてやる方がよかったかい?」


と・ん・で・も・な・い・!・お・こ・と・わ・り・!


「さぁて、あいぼう。」
よみがえったバクは、バクにえらそうに言いました。

「おいしい悪夢をさがしに行こうじゃないか!
おじょうちゃん、悪夢を見たらいつでも声をかけてくれ。
ただし、おれたちはなまものはきらいだ。」

女の子は、地面に向かってせっせと手を動かしていました。

「やれやれ、この子はいつだって人の話を聞いちゃいない。」

見ると、小さな立て札が立ててありました。

「バクのうまれたばしょ」

そして、にやっと笑っていいました。
「お墓より、ましでしょ?」

バクは、なんだか知らないけど、うまくいったんだなとほっとしました。

だって、こんなえらそうな仲間ができたのですからね。
心づよいじゃありませんか。

バクとよみがえったバク(鼻の先に芽ぶいた種つき)は、
女の子に じゃあね、と言って
のっそりのそのそ歩いていきました。

「いいかい?きみ。」
バクはよみがえったバクに言いました。
「人間から悪夢の話を聞くときは、何でも食べるなんてめったなことは言わない方がいい。」
「わかった。」

よみがえったバクはバクに聞きました。
「悪夢ってどんな味がするんだい?」
「そうだなぁ、人間でいうステーキのようなものかな。」
「ちっ。わかりづらいなぁ。 できるなら パフェの方がありがたいんだけど。」
「それ、それかもしれないな。」
「・・・。」

「とにかく、ぼくたちバクにとって、悪夢は最高のごちそうさ!」


*おしまい*

(C)つっきん/Kiyoko Kishino 2006.3.14
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