ゴミ箱に投げ込まれちゃった話
文 つっきん


大好きな小高い森の中で、わたしがのんびり過ごしていたある日のことです。


目の前に、とつぜん 大きな大きなくま男があらわれて
びっくりしてかたまっているわたしを ぽーーーいっと放り投げました。
あまりにも とつぜんに です。

わたしの体はひゅーーーんと飛んで

すぽっ

と、かなあみ製のゴミ箱へすっぽりおしりから入り込んでしまいました。
両足と両腕でばんざいをしているかっこうで。

もがいて立ち上がろうとしたのですが、なんとゴミ箱があまりに体にぴったりで
ちっとも身動きがとれません。
それでも ぎゅうぎゅう体を動かそうと試みましたが
ゴミ箱の形がゆがめばゆがむほど、
わたしはますますきゅうくつになってしまいました。

あらら、こまったどうしよう。

あきらめかけたそのときです。

こんどは、とつぜん大きな風が吹いてきて
ゴミ箱を中のわたしもろとも、どっさり倒してしまいました。

ドッサッ ゴロゴロゴロッ

坂道下ってゴロゴロゴロゴロ
木々のすきまをかいくぐり
ゴロゴロゴロゴロ、どんどんスピードだけがあがってく。

ああ、止まらない!だれか助けてーーーー!!


こんどは、ゴミ箱の中のわたしもろとも宙にうき、一瞬ピタッと止まった次の瞬間

すぅぅぅぅぅ

谷底を流れる川をめがけてまっしぐらに落ちてゆきます。

もうだめ、もうだめ、もうだめだーーーー!!



ド・サッ

気がついたら
そう。幸いなことに、わたしは気がついたのです。しかも、ひとつのけがもなく!
あいかわらず、ゴミ箱の中に閉じこめられたまんまでしたが
なんと、漂流していたいかだの上に、ドサッと落ちていたのです。

川の流れに身をまかせつつ、
ゴミ箱の中、いかだの上で、
わたしは自分のこの身の上に、涙を流しておりました。
涙はどんどんあふれてきます。
だって、そうでしょう?
一度に起きたできごとにしては、まったくわけがわからないのですから!

いかだのまわりから、たくさんの視線を感じました。
なにやら、こちらを獲物のように狙ういやらしい目。

はっと息をのみました。
大きくはないけれど、おそろしい姿の魚が、
鋭い歯をちらつかせながら何匹も何匹もいかだを取り囲んでいるのです。
人食い魚!
わたしは悲鳴のかわりに大声でわんわん、わんわん
涙を噴水のように弧を描くほど吹き出しながら泣きました。
そのたびにいかだのまわりを魚たちが飛び跳ねるので
怖くて怖くて、わたしはもっと泣き続けました。

いかだが がくんとゆれて、
せっかく立っていたゴミ箱がばたんと倒れました。
だめっ!川へ落ちちゃう!

いかだにふれた指先にくっと力を入れると、
なんとか川の中へ落ちずにすみました。
ふっと顔を上げると、1匹の魚の目がわたしの目をのぞき込みました。

食べられる!

ところが、魚はわたしから顔を背け、
またいかだのまわりをざわざわ泳ぎはじめました。

あれ?

わたしは、魚をちらりとながめながら、また涙を流して泣いてみました。

まさか・・・
この魚たちは、涙の雫を食べているのだわ!

わたしは、そのことに気がついて、泣くのをすっかりやめました。
魚たちは、何度かいかだをゆらして、わたしを泣かせてやろうとしていましたが
とうとう、わたしの「もう泣かない」という決意を読みとったのか
ざわざわといかだから離れていきました。

ほっとしたとたん、また涙が出そうでしたが襲われるのはこりごりです。
がまん、がまん。
こんなにがまんしたのは、そのときがはじめてかもしれません。


いったい、どこまで流されてしまうのだろう。
もう体中が痛くて痛くてたまりません。
ときどき、歌なんかも歌ってみましたが、のどもすっかり乾いて
声を出す元気すらなくなりました。

いったい、どこまで流されてしまうのだろう。
つかれきって、何も考えられなくなりました。

そのときです!目の前に大きな岩が立ちはだかっていました!
ああ、もう間に合わない!!正面衝突!!

ゴミ箱はいかだから大きく跳ね上がり、
高く高く空をめがけて飛びました。もちろん、中のわたしごと。
下の方で、いかだが小さく砕けちるのが見えました。

それから?
空へ行くわけ、ないでしょう?行ってみたかったけれど、
地球には引力というものがありますからね。

気がついた場所は、川べの砂浜でした。
そう、またしてもけがのひとつもなく!
こんども幸運に見放されずにすんだのです。
ただ、やはりゴミ箱の中のまんまでしたが、
とりあえず、流されるだけの運命からは解放されました。

ほっとしたのもつかの間。

向こうの林からがさがさ音がして、
なんと1頭の大きなライオンが!

もう、ただただびっくりして、声も出ません。
どうしてこんなことになるのでしょう。
死んだふりなんて、すっかり手遅れ。
だって、大きく開いた目と目が思いっきりあっちゃったのですから。

ライオンは一歩一歩近づいてきました。
こちらをまっすぐ見つめて。

わたしは目を閉じてガタガタふるえていました。
ああ、もうおしまい。こんどこそ、ほんとうに!

ライオンの前足が、ゴミ箱をつかみました。
ガバッと、かなあみを食いちぎる音が聞こえたとたん
わたしの意識は遠くへ飛んでいってしまいました。



あたたかく、包まれている感じがしました。
わたしは無事、天国へついたのかもしれない。


そう思って、そろりそろりと目を開けてみましたら
ひとりの、そう、わたしと同じくらいの少年が、
わたしを抱きかかえて顔をのぞき込んでいます。
空には満天の星と、
彼が用意したのでしょうか、たき火がパチパチ燃えていました。

「あの・・・ライオンは?」
わたしは、お礼より先に聞いていました。
「ああ、もういないよ。」

「だって、あれは ぼくだから。」


そのときの少年の話をしましょう。


少年は、華奢な体つきではありましたが、とても力自慢でした。
とにかく、大きいものは何でも投げ飛ばしてやりたくなるのです。
岩であろうが、飼い牛であろうが、倒れた大木であろうが。

それはときには役に立つものの、たいがい迷惑このうえない性分でした。
「ぼくに力を!もっともっと強さを!百獣の王、ライオンのように!」

その日、少年はまたしても自分の力を試したくなってむずむずしてきました。
そこで自分の家の屋根に登り、石でできた煙突を引っこ抜こうと試みました。
家がぐらぐらゆれ、母親は何事かと外へ飛び出しました。
そして、とうとう母親の堪忍袋の緒が切れてしまったのです。

「あんたなんか、もうライオンになっておしまい!」

罵った言葉に込められた力は、とんでもないものでした。
言葉は一直線に少年の心を射抜き、少年をライオンにしてしまったのです!
自らのライオンの姿に呆然とする暇はありませんでした。
ライオンになったことは、喜びをもたらすどころか恐怖、恐怖、恐怖!
なぜなら・・・村中の人が銃を持って追いかけてくるのですから。


やっとのことで逃げ延びたものの、ライオンは命からがらでした。
もうライオンなんてこりごり。
もとの姿にもどりたい。
でも、いったいどうすれば?もどる術なんてこの世にあるのだろうか?

ライオンになった少年は心もからがらになりました。

そのとき。
向こうからイヤな砂だらけのつむじ風が、
まっすぐライオンの方へ近づいてくるのが見えました。
つむじ風はどんどん砂をまき散らしながらやってきて、
目を開けていることすらできません。
まきこまれる!
そう思った瞬間に、つむじ風はライオンの前でピタリと止まりました。

「ライオンよ。元の姿に戻りたいだろう?ひっひっひ。」
嫌な笑い声にムッとして、ライオンが目を開けてみると
黒い服の小さな小さな老婆がライオンの鼻先にのっかっていました。

こいつは魔女だな、と思ったものの、声も出せずにいました。
だって、声を出したらこの小さな魔女はライオンの鼻息で飛んでいってしまう!
そんなことをしたら、今度はどんな魔法をかけられてしまうやら。

魔女は小さな声でこうささやきました。

「向こうの川岸へお行き。ゴミ箱に入った女の子が降ってくる。」

そうして、杖をひとふり、ざぁっとつむじ風を巻き起こし、
あっという間に消え去りました。

ライオンはがっかりしました。
たいした手がかりにはなりそうもないと最初は思ったのです。
でも、なんとなく気になって、それでもまさかと思ってやってきて
言われた川岸近くの林の影からこっそり様子をみていたところ、
本当にゴミ箱に入ったわたしが空から降ってきた!というわけです。

ライオンは、ゴミ箱を食いちぎりました。
中のわたしは気を失っていましたが、おかまいなしです。
それよりゴミ箱にすっぽりはまっている人が困っていないわけはないのです。
助け出すのは簡単でした。
ライオンには自慢の力がたっぷりありましたからね。
ゴミ箱の中のわたしを助け出したとたん、
ライオンは少年の姿にするするともどったのでした。


ひといきに話し終えて、少年は慌てたように言いました。
「寒くない?」
「ええ、大丈夫。ありがとう。あっ・・・」

小さな痛みをあちらこちらに感じて
ようやくわたしの体にはいくつも切り傷やらかすり傷ができていたことを知りました。
それに無数のあざ。
あんなできごとばかり続いて、ひとつもけがなく!なんて
やっぱりありえませんよね。
われながら のんきさにあきれてしまいました。

流れた血もすっかり乾いてしまっていたことで
からだの外へこれ以上血を流すまいと中でたえてくれたあざを見て
わたしのからだも必死でわたしを守っていてくれたことを知りました。

「でも、このくらい大丈夫。」


空から、ひとつ、ふたつ、星が消えていきました。
たき火の火もだんだん小さくなりました。

「さぁ、行こう。」

少年は、わたしを少年の家へ連れていきました。
母親は、少年が戻ってきたことを心から喜んでおりました。
心からほっとしたときにも、涙はあふれるのですね。
それは許しなのだとわたしは、そばで見ていて思いました。

「わたし、ここにいてもいいですか?」

こうして、わたしたちは今とっても仲良く暮らしています。
少年も、むやみに乱暴な力を使わなくなりました。むしろ本当によく働きます。
ライオンになりたいとも、もう決して言わなくなりました。
彼はれっきとした人間であることを喜んでいるのです。


これがわたしがゴミ箱に投げ込まれちゃったときの不思議な話。
世の中、こんなこともおこりうるってだけのお話です。


・・・


さーーーーーーーーっと 闇夜につむじ風。
少年が会ったという あのつむじ風の魔女です。


ちょっと待っておくれ!話の中にわしの出番が、たったのあれっぽっちだと!
やれやれ、人間とはお気楽極楽ゆかいでやっかい。

ああも 忘れっぽいものかね!
ごらんよ。
わしのことなどもうすっかり忘れて、すべてが偶然のように話しておる。


人間とはなんぞや?
それはだな、なにやら「大切なもの」を探しにこの世に生まれてくるらしいのじゃが
いや、なに、
それはこの「魔女たるものの本」
12万5千893ページにちらっと書いてあるだけだがの、
それ以上のことはなにも。これは「魔女たるものの本」だから。

ま、たいがい「大切なもの」探しのことはすっかり忘れておるのが 人間じゃ。
お気楽極楽ゆかいでやっかい、それでけっこう!
ドタバタジタバタ、むやみにやたら、それでけっこう!

だからこそ、このつむじ風のババがいるのさ。
人間どものドタバタジタバタ、おもしろいったらありゃしないのだけど
ときどき、じれったくなるものでねぇ。わしもすっかり歳かねぇ。

わしは「つむじ風のババ」。1億6千859万7946歳。
いちおう覚えておくがいい。


ま、でも。
くま男に化けて、あの子をゴミ箱へ投げ込んじまうだなんて
あれはちょっとおふざけがすぎたかねぇ。ひょっひょっひょっ。



つむじ風のババはにんまり。
つまりは、すべてはババのしわざ。これがこのお話のたねあかし。



さーーーーっと闇夜に つむじ風。
風の向くまま、つむじ風のババのお気の向くまま。


こんどはどこで だれに なにがいったい 起きるやら。

*おしまい*
©tukkin 2004.3

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