文 つっきん

ある日、わしらメダカ族の住む池に
人間の鼻が落っこちてきた。

「なんだ?なんだ?」
わしらは、ワサワサ寄り集まった。
「こりゃ、人間の鼻だよ。」
「ごらんよ。あの子の顔ったら。」

見上げれば、目と口あんぐりあけてかたまっている人間の小僧が
池の中を、というより
池の中に落っこちた自分の鼻を、じーーーっと見ている。
なにやらゴモゴモ言っているようだが、幸いここは水の中。
ちっ〜とも、さ〜っぱり聞こえやしない。

人間の鼻というものは、つねづね変な物だと
よくあんなものをくっつけて恥ずかしくないものだなと思っていたが、
こうしてまじまじまぢかで見ると、ますますへんてこりんなしろものだ。
だが、
鼻のついていない人間の顔ときたら!
顔の真ん中がぽっかりあいて、まぬけで大バカものに見えてしまうから
わしらは、腹をかかえて大笑い。

小僧はうーーーんと手を伸ばして鼻を取り戻そうとした。
させるか!
わしらは一致団結、メダカ族。
小僧の方を見ないようにしながら鼻をずずっと池の真ん中の方へひきずった。

小僧はにわかにあせったようだ。
ふっ。どうせここまで届くまい。

わしらは、じっくり鼻の観察をすることにした。
なんで山があるのだろう?
なんでふたつの穴があるのだろう?
穴はどこかでつながっているのだろうか?
穴の中には水草に似たものがゆぅらゆら。
人間の鼻の中に住む魚でもいるんじゃないか?

よぉし。それなら探検だ!
穴の中へ潜入だ!潜入、潜入。
穴の中はえらく暗い。
黒い水草(鼻毛のことだ!)が やけにこそばゆくて
うひゃうひゃ笑い出すものもいる。油断大敵。恐るべし鼻。

ぶはっしょーーーい!
とつぜんの大風大波に、わしらはざざっと穴の外へ押し戻された。

ぉおお!なんか、おもしろいぞ!
わしらは再びワサワサ穴へ潜入した。

ぶはっしょーーーい!
ざばーーーんばーーんばん。


   ぬるん。


一匹の仲間に異変が起きた。
ぬるぬるした怪物のようなものにつかまってしまっている。
助け出せ!はやく!はやく!

おびれやせびれで、はたいて はたいて
やっとのことで助け出す。
鼻はなかなか手ごわいヤツだと、腹の奥がぶるっとした。

あの怪物は、たいしたヤツじゃなかったが
いったい何者なのか、どこから来たのか
考えても考えてもさっぱりわからぬ。

そこへ、わしらよりからだのでかいアブラハヤがゆら〜りやってきて
「なにをしているのだ?」と聞くので
「かくかくしかじか。」と答えると
「ならば、おれ様が行ってみよう。」と言うので
わしらはとっぷり見物することにした。
さすが、アブラハヤ様、いってらっしゃいまし。どーぞお気をつけて。

アブラハヤは威風堂々穴に頭っから突っ込んでいった。
ところが。
穴はアブラハヤには小さすぎ
アブラハヤは穴には大きすぎ
穴の入り口でおっぽばたばた、じったばた。

ぶはっはっはっはーーーくしょーーーい!

わしらは見た。
小僧が口からツバキをまき散らし、くしゃみをしたその瞬間を。
まるでスローモーションを見ているようじゃった…。
とたんに
鼻の穴から ごっ・わっと怪物が大波大風とともにやってきて
ずる〜んとアブラハヤをひとのみしだらりと伸びた。
こ、これは…(あれだよ、鼻水。)
わしらはすっかりおののいて、
ささっと鼻を遠巻きにした。

人間ってやつはエライものを持っておる。
あんな危ないものには近づくものではない。

あの小僧は、と見れば
ぬるぬるした怪物に包まれたアブラハヤを見てワーーーッと大あわて。
いちもくさんにかけてって
いちもくさんにもどってきた。

   手には網。

やばいっ。逃げろ。

わしらメダカ族とアブラハヤ。いちもくさんに逃げ出した。

小僧はやすやすと鼻をすくいあげ、
何やら鼻のうら側にぬりたくって(…ボンド、かな?)
ペタリと顔にくっつけた。

あら、もとどおり。

わしらは、みんなおどろいて、目ん玉飛び出て、息が止まりそうになった。

うそではない。
ほんとうの話だ。(たしかにこれは、物語。)


チーーーン(男の子はちゃぁんと鼻をかみましたとさ)。


*おしまい*
©tukkin 2005.7.31


BGM*neiro4*

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