じいちゃんの家

文 つっきん


「行っておかえり。」
じいちゃんの声を背にちいちゃんは遊びに出かけていく。
ちいちゃんは
「行っておかえり。」がとても気に入っている。
「行ってらっしゃい。」より響きがいい。
「行ってらっしゃい。」より全然やさしい。
「ちゃんと帰ってくるもーん。」ってにんまりできるところがいい。

ちいちゃんが出かけていくのは、小路口にあるじいちゃんの家。
じいちゃんやみさこおばさんが子供の頃過ごしていた家。
あそこに今も住んでるみさこおばさんとだらだら過ごすのがたまらない。

じいちゃんの家には地下室がある。
ちいちゃんは、そっとのぞいてみたことはあるけど
中に入ったことはない。入れてくれない、そんな空気だ。
しーーーんと静まり返ったただ穴蔵のような地下室は
「今はなにもしゃべらないよ。」
そう言ってるみたいだ。

「あ、そ。いじわるぅ。」

ちいちゃんは、できるだけいじわるっぽく言ってみた。


「なんと!?わたしはいじわるではなーい!」
ちいちゃんは、びっくりした。
だって、目の前に水でできたようなおじいさんが立っていたから。
長い杖。長いあごひげ。長い着物。

「ここは 仕事場。大事な仕事場。」
「仕事場?」
「そう。この家の主人がここで石をコツコツ削り、コツコツ磨く。見せてやろう。」

ちいちゃんの目の前に、見たこともない男の人が背中を向けて一心に石を数っているのが見えた。
そばにはたくさんの彫刻刀のようなものが散らばっていて
見事に磨き上げられた丸い御影石や、灯籠の屋根のようなものが見える。

ちいちゃんは、じっとその様子をみた。
男の人は、真剣な目で石と向かい合っていた。
「すごい…。」

思わずこぶしをきゅぅっと握りしめたとき、向こうに少年が座っているのが見えた。

「じいちゃんだ。」
少年の目を見てすぐにわかった。同じまなざし。
少年は国民学校の服を来て、きちっと正座をして、
握りこぶしをしているところはちいちゃんと同じだった。

男の人が少年に声をかけた。
「なんだ?」
「ううん。なんでも。」
たった、それだけ。

そしてぐにゃんと二人の姿は消え、また例のおじいさんが現れた。
「ここは、そういう場所だ。教えることはこれで充分じゃ。」
そういうと、おじいさんも消えた。

ちいちゃんは、地下室を出た。
青い空が眩しすぎた。
ちいちゃんの心の中に、コツコツという音が響き、ちいちゃんの心臓の音と重なった。
体中がじんわりとあたたかくなった。


「おばちゃーん、のどが渇いた。ジュースジュース!」
みさこおばさんに冷たいカルピスをもらって
氷のコツコツぶつかる音を聞きながら、にっこり笑って

「おばちゃん、コツコツ、が大事なんじゃろ?」
「ちいちゃん、なんで知っちょるん?」
「それは、内緒。でもコツコツしたら、あったかーくなるんよ。
そしたら、やさしーい気持ちがわいてくるんよ。だからコツコツは大事。」

「ちいちゃんは、かしこいなぁ。」

帰り道。ちいちゃんは、とっても得した気分でなんだかうれしくて
いつもより「ただいまー!」の声が大きくなった。

あのへんてこなおじいさんは、地下室の精霊だったのかな?
精霊にしては「いじわる」にこだわっていたけれど。

「おかえり。」
と言ったじいちゃんの顔は、あの少年とやっぱりおんなじ目をしてた。
ちいちゃんが、じぃっとじいちゃんの顔を見つめているのに気がついてじいちゃんが聞いた。

「どした?」
「ううん。なんでも。」

そう言って、ちいちゃんはもう一言だけつけたした。

「じいちゃん、だいすき。」

庭の蜜柑の木の葉たちがそろってさわっと揺れた。。

*おしまい*

(C)tukkin,KiyokoKishino/2006.9.21

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