ジェシカおばさんは夕食の準備をしていた。
コトコトと音を立てているのはポトフ。
まな板の上には、ピチピチとした四匹の魚。

ピチピチ、ピチピチ

銀色のうろこがキラキラ光る。

ジェシカおばさんはなべのふたをあけて、
お玉を右手に持ち、
ゆっくりとなべをかきまわした。

そのとき!

ひょっと現れた一匹の黒猫が、まな板の上の魚を一匹
さっとくわえて逃げだした!

「これ!お待ち!」

ジェシカおばさんはあたふたコンロの火を止め、
エプロンを片手であたふたはずして追いかけた。

ジェシカおばさんは、主婦の鏡だ。
だってそうだろう?火を止めてエプロンをはずしたのだから。

そこまではよかった。
結局のところ、ジェシカおばさんは
右手にはしっかりお玉をにぎったまんま、
玄関で右足にサンダルをひっかけて、左足はスリッパのまんま、
鍵は開けっぱなし、
影は壁においてけぼり。

平静を失うと影すらも本人に付いてきそびれることがあるんだ。

そのとたん、ジェシカおばさんの家で何が起こったか。
おどろかないで聞いておくれ。

ピチピチと跳ねている魚はまさにジャンプしたまんま、
ドアは大きく開けはなたれたまんま、
脱ぎ散らされたスリッパはすっ飛んだまんま、
両手をあげてあたふたしているジェシカおばさんの影が
玄関の壁に貼りついたまんま、

ピタッと時が止まったんだ。
そうさ、なんとも異様な光景さ。

そこへやってきたのが泥棒男だ。
一部始終をすっかり見ていた。
「ひひひひひ。鍵もかけずに飛び出すなんて
まったくもってしめたもの。」

そして一歩、ジェシカおばさんの家へ足を踏み入れたとたん!

「ぎゃっ!」
誰もいないはすなのに黒い人影目について、
その後ろにすっ飛んでいるスリッパと
さらにその後ろでキラリと光る宙に浮いてる魚が見えて、
それらがいっぺんに目の中へ飛び込んできたために、
泥棒男のからだはひぃぃっと凍りついてしまったんだ。

そこへジェシカおばさん帰ってきた。
魚を一匹くすねられ、むしゃくしゃしながら帰ってきた。
と、家の玄関に怪しげな男!

ん!?もしや、泥棒!?

ジェシカおばさんは、持っていたお玉で
男の頭をパッカーーンと一発、きれいになぐってやった。

そのとたん、
男は目から火花がくるくる飛び散らせながら気絶して、
影はジェシカおばさんの足元にすんなり戻り、
すっ飛んだスリッパと宙に浮いてた魚は無事着地した。

一度あたふたしたものだから、
ジェシカおばさんすっかり肝がすわってる。
泥棒男を荷造りひもでぐるぐる巻きにし、
やってきた警官にさっさとひきわたして、
エプロンをパンパンッとはたくと、
威勢よく夕食の準備を再開した。

「猫に魚を一匹やらたけど、なんだかスカッとしたねぇ。」
と鼻歌まじりに言いながら。

すっかりすべてがジェシカおばさんのペースにもどり、

コトコトポトフは煮込まれて
一匹足らない魚もジュージュー香ばしく焼かれてく。
ジェシカおばさんの家の夕食では
誰と誰が魚を半分こにすることになるのやら。

ジェシカおばさんは、それを決めるのは
あみだくじかじゃんけんで、と決めているらしい。

そう顔に書いてある。

夕食時が楽しみだ!

*おしまい*

                     (C)Tukkin /Kiyoko Kishino 2006.1.29

あわてふためく

 文 つっきん













































































































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