かっこうとろば
文 つっきん

年老いたろばが とぼとぼと いなかの道を歩いています。
とても困った顔をしています。
ああ、ほんとに。まゆげの先まで困っています。

林の入り口の木の枝に、一羽のかっこうがとまっています。
とても困った顔をしています。
まあ、ほんとに。くちばしの先まで困っています。

ろばが歩いている道の先に、かっこうのいる林がありました。
一頭と一羽
であいであうよ…もうすぐね。

林の入り口に ろばが さしかかりました。
ろばが
「はぁ〜」とため息をついたとき、
「はぁ〜」とあたまの上からこだまが返ってきました。

ろばが 困った顔を ふと あげてみると
木の上に 困った顔の かっこうがいました。

「こんにちは。」
「こんにちは。」

そして 同時に「はぁ〜」と ため息をつきました。
「失礼ですが、お困りのようですね。」と
ろばがさきに声をかけました。さすが 年をとっているだけのことはあります。

「はぁ…。でも あなたも お困りのようですね。」
かっこうも言いました。
「どうなさったのですか?」
…心やさしい、かっこうです。

「いえね、私は人間に飼われていたのですが、
見ての通り、よぼよぼの年寄りなもので、主人に『自由におなり』と言われましてね。
それまで、主人のもとで 一生懸命重い荷物を背中に乗せて運んだり、
畑を耕すことばかりしてきたものですから、急に自由にと言われましても
どうしていいものやら さっぱり わからないのです。
背中に乗せて運ぶものが何もない暮らしなんて、今までしたことがないのですから。
ところでかっこうさん、あなたは 何を困っているのです?」

「もう たまごを生む季節だというのに、羽がおれてしまって、飛ぶことができないのです。
なんとか地面に落ちずにすんだものの、ここから動くことができません。
それに、私たちかっこうはたまごを生んだら生んだでひとしごと。
たまごをこっそりほかの鳥の巣にしのびこませなければなりません。
折れた羽ではたまごのための巣を探しに行くことができないではありませんか。
これを困ったと言わないで、どうしましょう。」

ろばがゆっくり口を開きました。
「どうでしょう。困ったものどうし、一緒にいれば何とかなるかもしれません。」
ろばの申し出に、かっこうはくびをかしげて、きょとんとしました。
「どうやって?」

「そこから飛び降りるのです。私の背中に。さぁ!」
ろばの声には、しっかりとした強さがありました。
かっこうは目をつむって、息を止めて飛び降りました。

神様!ぶじ、ろばの背中に!

ろばもせなかをくぃっくぃと動かします。

神様!ぶじ、かっこうを私の背中に!

ぽすっ

神様…神様、ありがとう!うまくいきました!

「カッコー、カッコー」
かっこうのうれしそうな歌声は、 とても晴れやかな声でろばをうっとりさせ、
ろばは身体があったかくなるのを感じました。

「さぁ、行きましょう。」
羽のおれたかっこうを背中に乗せて、ろばは林の奥へと歩きはじめました。

ろばは思いました。
背中に乗せるものがあるってやっぱりいいな。

それに、かっこうは林の中のことなら何でも知っています。
道に迷うこともありません。
かっこうとろばは、かっこうのたまごを預かってくれる鳥の巣はないかと
歩き続けました。

こうなったら、たまごをこっそりしのびこますわけにいきませんから、
頭を下げてたのまなければなりませんからね。

鳥の巣というものは、木の枝がおいしげった 高く 目立たないところにありますから、
なかなか見つかるものではありません。
それに、親鳥たちは自分のたまごやひなを守るのに必死ですから
「たまごを預かってください。」
とお願いしても、
「ち、だめだね!よそものは。」と あっさりことわられるしまつ。
さらにやっかいなのは
「さぁて、どうしたものかねぇ」と
逆に困ったような顔をされると、
困ったろばと困ったかっこうはますます困ってしまうのでした。

「はぁ、困りましたねぇ。」

思わず顔を見あわせた かっこうとろば。

「くくくく、ひっひっひっひ、あはははは。」

「失礼!かっこうさん、あなたの困った顔ったらおかしいねぇ。」
「いやいや、ろばさんこそ!まゆげも目も口もみんなたれ下がって…カコカコカー!」

ひとしきり笑いあって、ろばはかっこうに聞いてみたかったことをたずねました。
「どうして、自分でたまごをあたためないのです?」

かっこうは、ふたたび困った顔になって、首を横に振りました。
「わたしにもわからない…それは体に組み込まれた自然のおきて。」
「なるほど、自然のおきてならばいたしかたありません。…そうだ!」
ろばは 言葉を続けます。
「かっこうさん、誰かにたまごをを預ければいいんでしょう?
でしたら、わたしに預けてはいかがです?」
さすが、ろば。 年をとっているだけのことはあります。知恵があります。

「なんてこと!巣はどちらに?」

「そうだなぁ、わたしの耳の穴は どうでしょう?
ちょうどいい大きさの穴ですし、耳たぶが たまごを守り、あたためるでしょう。
遠慮はいりません。」
「ありがたい。お言葉に甘えてっと。」

ポトン。

ろばの左の耳に かっこうのたまご。
「痛くはありませんか? ちゃんと、わたしの声は聞こえますか?カッコー、カッコー」
…素直なわりに 心配症なかっこうです。

「大丈夫、大丈夫。耳は ふたつありますからね。かっこうさんの声はやさしいなぁ。」

かっこうと ろば。

ああ、幸せ。幸せってくすぐったいなぁ、 困ったなぁ。
おたがい 顔を見合わせて 
おたがいの困った顔を見ては、「おかしな顔ですねぇ」と笑ってしまうのでした。

「なんだぁ、おまえたち。」
がらがらの 低い声とともに
知らぬ間に近づいてきたのは 長い舌をひょーろひょろさせた どす黒い大へび。

「飛べないかっこうに よぼよぼの ろば。 
う〜ん? おっ! たまごまで持ってやがる。シシシシシ。」

たいへんです。
このままでは ぺろりと 大へびに食べられてもおかしくありません。

ろばが 困ったように 言いました。
「あのぉ、何かご用ですか?」
「シシシシシ、おまえら まとめてひとのみだ。」
「それは、困りましたなぁ。
わたしは見てのとおりよぼよぼでおいしくありません。
カッコウは羽がおれておりますから、
食べたらあなたのご自慢の体に骨が刺さってしまうでしょう。
このたまごなら さしあげましょう。
ただし、お気をつけくださいよ。呪いのたまごですからね。」

「なんだって?」

「とてつもない呪いがかかっているんですよ。魔王の鳥のたまごですからね。
ですから、ちゃぁんとあたためないと怒ってあなたを丸焼きにしてしまうでしょう。
わたしども、このたまごのせいで 本当に困っているのです。
ろばのわたしが、鳥のたまごをあたためるだなんて!」

かっこうとろばの困った顔は、この世の終わりぐらい困った顔でしたので
大へびは なんだかすっかり 力がぬけて
「もういい、もういい、勝手に呪われてしまえ。」
そういって しゅるしゅる 向こうへ行ってしまいました。

困った顔が 時に役に立ったりするものです!

ほっ、と 気持ちがゆるんだ そのとき
今度は目の前に、クマがあらわれました。

「飛べないかっこうに、よぼよぼのろば。
なんだ?耳の中に たまごなんか入れて、まぬけなやつらだ。
おまえらなんざ、おれさまの えじきに してくれる!」

ろばは またまた 言いました。
「くまさん、ちょうどよかった。 わたしは本当に困っていたのです。
このたまごは 呪いのたまごなんでして…。」

「ばかめ、そんな手に おれさまが のるものか、はんっ。」

ろばは、大あわてで 続けました。
「いえいえ、この飛べないかっこうが くせ者なのです。
このかっこうが一声 不気味な声で鳴くと、
食欲はうせ、見る間にやせ細ってしまいます。
ごらんください。このわたしの体を。これがたまごの呪い…。
こんなに よぼよぼになってしまって…本当に困っているのです。」
「ガガガ・・・ガッゴー、ガッゴー 」
かっこうも 調子に乗って 変な声で鳴いてみせます。
「やややや、ぁぁぁ、か、からだがぁぁぁ。」

くまは あきれて ちょっぴり 怖くなって なんだかすっかり 力がぬけて
「もういい、もういい。 おまえら 勝手にやっとくれ。」
そういって 茂みの中へ 消えていきました。

困った顔が 時に役に立つのは、これで間違いありません!

かっこうと ろばが にんまりわらった そのとたん。

ろばは 耳がちぎれてしまうかと思うような
大きな バリバリという音に 思わず 大声を上げました。

「うわぁぁぁああ!」
かっこうは、びっくりして ろばの短いたてがみに しがみつきました。

「あ! たまごが!」

たまごにヒビが。

もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ

「ろばさん、しっかり! たまごが、たまごが かえろうとしているのです!」
ろばは 必死でした。
かっこうも 必死でした。
足ぶみをしてみたり 歌を歌ってみたり
とにかく なんだか とても 必死だったのです。

林じゅうがドキドキしました。
近くにいた動物たち…あぁ、本当にたくさんのけものも 鳥も 虫までも
つられて ドキドキして ろばの耳を見つめます。

やがて…かしゃんと たまごのからが 地面に落ちて
「ピ…ピ…」
ひなの 声が ちいさなちいさな声が 聞こえました。

おめでとう、おめでとう! 
ろばの耳の中で かっこうのたまごがかえったよ!
ひなだ、ひなだよ!ろばの耳の中でかっこうのひな!

ぱぁっと 林の空気が はじけたような喜びにみちあふれました。

「あぁ、よかった。」
顔を見合わせたかっこうとろばは、はたと 困ったことに気がつきました。

「どうやって 育てればいいんだろう?」
ろばは 考えました。
自分が赤ちゃんだった頃…
おかあさんのあたたかいおちちと牧草が なによりのごちそうだったけど?

この子はどう見てもろばではありません。

かっこうは 思い出しました。
自分を預かってくれた見知らぬ親鳥が 
せっせと小さな虫や ミミズを 口へ運んでくれたこと。

「だいじょうぶ、ろばさん、なんとかなります!」

こうして、かっこうとろばとひなは 家族になりました。
なんだか へんてこな 家族です。
だけど、ちいさな ひなの命を守るため

かっこうとろばは 困った顔をしているひまはありませんでした。

ひなは 林の動物たちとも仲良くなり、すくすく大きくなりました。
やがて…秋が来て、冬が近づいてくるころ、

「おまえは 南の国へ 行かなければなりません。」
かっこうは すっかりおとなになったひなにいいました。
「かあさんと、とうさんもいっしょだろ?」
「いいえ、とうさんは ろばですから、飛べません。
かあさんも 羽がもとどおりにはならなかったので 飛べません。
それに、わたしはもう長くも生きられない。」

かっこうは とても 苦しそうでした。

ろばは ゆっくり口を開きました。
「わが子よ。南の国へ行くのだ。自然のおきてに逆らってはいけない。
ほんとうは かあさんも おまえといっしょに一緒に行かせてやりたいのだが。」

「いいえ、私は、足手まといになるだけです。
とうさんのそばにいられたら それでいい。」

それを聞いて ひなは 困った顔をしました。
とてもとても 困った顔をしました。

ろばが 泣きそうな声で笑いながらいいました。
「おまえの困った顔は かあさんの困った顔に そっくりだ!」
それを聞いて かっこうが言いました。
「まぁ…私の困った顔って あんなにひどいんですか?」
と それはそれは 困った顔をしましたので

ろばも すっかり困った顔をしてしまいました。

「くくくく、ひっひっひっひ、あはははは」

不思議なもので、みんなで 大笑いをすると、なんだか決心がつくものです。

「わかった。南の島へ行くよ。そうして、また 帰ってくるよ。」

「そうだ、これをもったおゆき」
かっこうは 自分の右目を取り出して 羽でくるくるとなでました。
すると…目玉は 赤く光るきれいな玉になりました。

それをろばのしっぽの毛でしっかりと ひなの首に結わえました。
「お守りだ。きっとおまえを守ってくれる。さぁ、お行き。もうすぐ 冷たい風が吹く。」

「かっこー、かっこー」

やがて かっこうは ろばの背中で 死にました。
ろばは 静かに泣きました。
そして これからどうするかなぁと 困ってしまいました。

「ろばさん、あなたの困った顔ったらおかしいですねぇ。」

雲の切れ間からそんな声が聞こえてきて
ろばは小さく笑いました。
かっこうの困った顔を思い出し、泣きながら笑いました。
ひなの困った顔を思い出し、空を見上げて泣きながら笑いました。

それから、

年老いたろばは、林を出ていきました。
おだやかな顔をして、ゆっくりと金色の道を歩いていきました。

*おしまい*
©tukkin/Kiyoko Kishino2006.3.1


BGM*涙のしずく*

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