おばけの あいつ
文 つっきん

おれ、おばけに あった。


白いふわんとしたやつで
足のほうはすーーーっと消えてて

とにかく、そのとき
おれは おばけと目があってしまった。

じーーーーーーっ

おもわず見つめあう。

というより

おたがい、かたまってしまったというのが ただしい。
だって、今の今まで
おたがい目があうなんて
これっぽっちも 思ってもいなかったのだから。


じーーーーーーっ

おれは、やぁ、というように右手をあげた。
やつも、やぁ、と返してきた。

「おばけなのか?」
と 聞いてみた。

「そうなのかも。」
と 答えがあった。

「ふぅん。」
と 言った。

「おどろかないの?」
と 聞いてきた。

「じゅうぶん おどろいてる。」
と 答えてやった。おれって正直だ。

にやり。
口を横に にぃぃっとひろげて やつは笑った。おばけらしく。

「そいつは ありがたい。
人間に姿を見られたら、とにかくおどろかせて逃げる!ってのが
おばけ界の鉄則でね。」

「・・・で、逃げないの?」

「なんか、もったいない気がしてきた。もうすこしおまえのそばにいる。」

・・・勝手にしろ・・・

と、思いつつ、なんとなくうれしかった おれだった。

おれにだけ見えるおばけ。

誰にも言えなそうな自慢が おれの気分をいいものにした。


おばけのあいつは なかなか便利な力があって
前もって都合のいいことを教えてくれるんだ。

おばけがいう。
「明日は母さんがイライラしそうだ。ポイントは積極的にお手伝い。」
りょうかいっ。
翌日おれは、自ら買い物係をかってでた。
「おつりで、おやつ買っていいからね!」
にやり。やったー♪

また おばけがいう。
「コータと今日は一緒に帰らない方がいい。けんかになる。」
コータとおれは 親友なんだ。
けんかはごめんだ。そうするさ。
「コータ、ごめん。おれ、ちょっと用あるから先に帰るな。」
コータはきょとんとしてたけど。

な? なかなか便利だろ?

そして また。
「あ、その道まがらないほうがいい。おまえ、犬のウンチふむから。」
はいはい。
まわり道、まわり道っと。

こんなつまんない、けどありがたいことまで教えてくれる。


おかげで おれの毎日は快適だった。
悪いことは何も起きない。おれのまわりでは ぜったいに。
おれは とにかくハッピーだった。

おれはおばけといっしょにいることが 楽しくてたまらなかった。


ところが
あいつが「さよなら」を言いだした。
とつぜんだった。
であったときのように とつぜん。

じーーーーーーっ

おもわず見つめあった。

というより

やっぱり おたがい かたまってしまったというのが ただしい。
なにが起ころうとしてるのだ?

じーーーーーーっ

「おばけ界にもどる。人間をおどろかせる修行。」
あいつは ひといきに言った。消え入りそうな声で。

「なんでよ。なんでだよ。」

「おまえ おばけといると楽をする。それじゃ おまえ人間じゃなくなる。」

・・・人間じゃなくなる?

「おばけは おばけの道をゆく。それだけさ。」
「ちょ、ちょっと まってよ!」

おれのことばにおかまいなく
おばけのあいつは、すうぅぅっと消えた。

消える直前に
右手をちょっとあげてさ、「元気で。」だってさ。
おばけに「元気で。」って言われたんだぞ?
おばけの言う言葉かよ。

・・・あいつは、おばけじゃなくなりそうになっていたのかも。
なんとなく そんなことを思った。



おばけのあいつは もういない。

おれにしか見えないあいつは もういない。

だから
おれは、母さんに叱られもするし
コータと大げんかもするし
犬のウンチだって・・・この間ふんじゃった。

でも 思うんだ。

こんなことがある毎日が、あたり前だって。
けんかしたりさ
失敗したりさ
叱られたりもしてさ
泣いたりさ
笑ったりさ

そんなおれって いじらしいじゃないか。


おばけのあいつは もういない。
だけど
おれには いたんだ、おばけの友達。
おれだけが知ってる おばけの友達。

これって けっこうすごくない?
誰にも言えなそうな自慢だけどね。

だけど おれは 大満足だ。

ちょっぴり おばけのあいつのことを心配してやる。
「あいつ、修行は うまくいってんのかな?」

それは わかりようもないけれど。
思えば、あいつに名前くらいつけてやればよかったと思うけど。

だけど
おれには いたんだ、おばけの友達。
おれだけが知ってる おばけの友達。

そんな おれに 大満足だ。



これからのおれの日々は、ずっと何が起こるかわからないわけで。
こりゃ、めっぽう楽しみだ。いわば冒険なみだね。

そんなふうに 
要するに、おれはあきらめることにしたのだ、いさぎよく。


*おしまい*
©tukkin 2004.3


*そんな夕暮れに*NamiNe

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