ロイ君のひがないちにち
文 つっきん

「あらぁ、かわいいワンちゃん。
なんという種類の犬かしら?お名前は?」
「ボストンテリアっていうんです。ブルドッグと間違えられるけど。
名前はロイ。あ、ロイ!待って!!すみません、じゃ、さよなら!」

ロイ君はだいちゃんちの犬。
お散歩の途中にたびたびこうして声をかけられる。

だいちゃんは親切にこたえるのだけど
ロイ君はおかまいなし。
だって、そんなのどうでもいいことなんだもの。

ぼくは ロイ。犬。だいちゃんちに住んでいる。それだけ。
行くよ、だいちゃん!

ロイ君とだいちゃんはとてもうまくやっている。
だいちゃんの家族=おとうさん、おかあさん、おねえちゃんとも。

だれといるのが一番すきかっていうと
やっぱり、だいちゃん、だ。

ロイ君は散歩がすき(だと、だいちゃんは思っている)。
あたり。たしかに。
だけど、散歩がきらいになる日もあるよ。

ま、きほんてきに すき。

散歩のときのロイ君は、自由気ままだ。
どんなふうにって?
答える必要があるのかい?

あっちへいったり、こっちへいったり
走ったり、歩いたり、立ち止まったり、逃げ出したり。
においをかいだり、おしっこしたり、あっかんべぇしたり。

「ああ、世の中は ぼくの思いのままだ!ありがたい!」
ロイ君は思う。
ぼくが行きたい方へ、だいちゃんはついてくるだけ。
ぼくが行きたい方へ、道はのびているだけ。

だいちゃんが、だめっていうこともある。
例えば、道ばたに落ちているおいしそうなおだんごとか。
くんくんにおいをかいでいると、えもいわれぬ いいにおい。
「だめ!ロイ、食べちゃだめだよ!毒かもしれない!」
ちぇっとロイ君は思う。
だけど、だいちゃんの目と声は危険信号発信中。
ロイ君は知っている。
ロイ君が知らない危険が世の中にはたくさんあること。
ほら、まわりをごらんよ。
世の中は、こんなにビュンビュン車やら自転車やら走っているんだよ?
その人達のいったい何人に、ちっぽけなぼくが目にとまっているだろう?
ロイ君はいろんなことを知ってる。
道ばたに落ちているおだんごよりも
「ロイ、いい子だ。きみはおりこうだよ!」
この言葉の方がぜんぜんおいしいってこともね。

ある日、散歩の途中でロイ君は道の真ん中で寝そべった。
あれは散歩がきらいな日だった。
だからって、きらいな日にいつも寝そべるわけじゃない。
<散歩がきらいな日のさらに特別なある日>だったんだ。

「ロイ、散歩に行くぞ!」
だいちゃんの声に、
「今日は やだ」と思ったロイ君。
だけど、だいちゃんが自分のために行こうと言っているのもわかってしまう。
ロイ君はおりこうさん。
・・・ところが、やっぱり。
外へ出てみたものの、ロイ君ぜんぜん歩く気がしないものだから
だらだらだら、と だまって歩く。
とぼとぼとぼ、と だまって歩く。
ロイ君の足が、ぴたっと止まった。
そしてとつぜん、ロイ君は道の真ん中で寝そべった!というわけだ。

「ロイ、どうしちゃったの、ロイ!?ロイ!?」
ロイ君は目をつむって、動こうとしない。
だいちゃんは・・・
途方に暮れつつ、少々腹を立てつつ
ロイ君を抱きかかえ、家へと戻った。

「ロイが、ロイが!!」
おかあさんが、だいちゃんの声を聞きつけてやってきた。
そして、しぃぃっとだいちゃんのくちびるに指をあてこう言った。
「・・・ただ眠ってるだけみたいよ?」
ふわぁぁぁ。
気ままなあくびとともにロイ君はぼわんと目を覚ました。
「なんだ、寝てただけだったのか、心配しちゃったよ、ロイ。」
だいちゃんは、ロイ君の顔を両手でやさしくはさみこんで
くしゅくしゅくしゅっとしてくれた。
そこで、ロイ君おくればせながら気がついた。
「そっか、ぼくは眠かったんだ。だから散歩がきらいだと思ったんだ。
しかしよかった。だいちゃんがつれて帰ってきてくれて。
ふわぁぁぁ。」
そう、ロイ君はとてものんびりやの犬なのだ。

ロイ君とだいちゃんはとってもうまくやっている。
だいちゃんが最近はまっていること。
それは、ロイ君のしつけ。

「おて!」
「おすわり!」
「まて!」
などなど。

「ロイ、しつけは人間と犬がいっしょにくらすのに必要なんだ。」
だいちゃんは、わかったような口をきく。
ロイ君は、ごちそうを目の前に「まて!」を言われると
じつは、ちょっとばかしムッとする。
「なんだよ?」っとチロッとだいちゃんを見ると、
だいちゃんもチロッと「なんだよ?」とロイ君を見る。

だから ロイ君は「まて」をする。
だいちゃんとあらそうのは 犬としてみっともないことだ。
それになにより、目の前のごちそうはおいしく食べたい。

このごちそうは、だれがなんといおうと ぼくのもの。
だから ロイ君は「まて」をする。

ロイ君は心に正直な犬なのだ。

さてさて、別のある日の散歩にて。
ロイ君、この日は哲学する猫に会ったんだ。
ロイ君が鼻歌まじりにごきげんで歩いていると
前方にため息まじりにつぶやく哲学する猫を発見してしまった。
用心しながら、ロイ君しらんぷりを こころみる。
「はぁぁぁ、なにゆえ あたくし 猫なのかしら?」
ああ、ロイ君はおひとよし。っていうか、おいぬよし。
「猫だから、猫なのさ」
哲学する猫の目がキランと光った。
「じゃ、あなたはなにゆえ、そんなへんてこりんな犬なのよ?」
これには、ロイ君困ってしまった。
自分を<へんてこりんな犬>とはこれっぽっちも思っていなかった。
「知るもんか。ぼくはぼくってだけさ。」
すると、哲学する猫は さげすむようにこう言った。
「まったく、ばかねぇ、はぁぁ。なにゆえ、あたくしは 猫なのかしらぁ?」
ロイ君は まったくあきれて
「バカでけっこう、コケコッコー」
といさぎよく、その場をさっさとはなれることにした。
まったく今日は イヤな日だ。
そう思ったとき、パカッと心にひらめいた!
「あ、そうか。ぼくはバカな犬なんだ。なんて幸せなんだろう!
バカはむつかしいことに頭を使わなくてすむってことだ。
おいらは(ロイ君とつぜん自分のことを「おいら」と呼んだ)
たのしいこと、ゆかいなこと、おいしいことを探してりゃいいんだ。
きょうは とっても 天気がいい!
きょうは とっても 気分がいい!
そんなことにちゃんと気づけるだけの頭があれば
おいらはとってもじゅうぶんだ!」

ロイ君はバカがつくほどいさぎよい犬なのだ。
ついでに にわとりのものまねもできる犬なのだ。
ぜんぜん似てなくても気にしない。
ロイ君はバカがつくほどいさぎよい犬なのだから。

ロイ君だって哲学したことがないわけじゃないんだ。
「家族のために なにかしたい。役に立ちたい。役に立つってどういうこと?」
だれだって、一度は思ったことあるだろう。
ロイ君も犬なりに<しんけんに>思っていた。
思ったならばやってみる。これがロイ君のやりかた。
・・・で。
おとうさんの大工しごとをてつだえば
クギをふんじゃって、おおわらわ。
おかあさんのおそうじをてつだえば
バケツの水をうっかりひっくりかえす。
おねえちゃんが気持ちよく本が読めるように
うたをうたってみたら おもいっきりおこられた!
そして、だいちゃんの工作をてつだおうとして・・・
しらずしらずにせっけいずにペタペタあしあとつけちゃって
「もう!!!ロイの役たたず!!」
・・・それはロイ君をうちのめすにはじゅうぶんな
<たったひとこと>だった。

「ぼくは 役たたず・・・。」
おちこみかけたが、そこはロイ君、またもパカッとひらめいた。
「そっか!役たたずなんだから、役にたとうと思うほうが まちがいだ!」
このままで いいんだ。
なぁんだ、そうだったのか。ロイ君は身も心もかるぅくなった。
このままで いいんだ。

そのとき 思い出がロイ君のところにやってきた。
「やぁロイ君、こんにちは。おぼえているかい?
だいちゃんが病気でねこんだ日のこと。」
思い出はロイ君にえんりょなくはなしかけてきた。

思い出はつづけた。
「だいちゃんが、熱でふぅふぅ つらそうだったねぇ。」

うん、そうだった。
ぼくは 熱でうなされているだいちゃんのそばにいたかった。
おかあさんは「ロイ、だいのそばにいっちゃだめよ」と言ったけど
ぼくはじっとだいちゃんのベッドの下にかくれていて
みんながしぃんとねしずまるのをまって
ずっとずっと だいちゃんのそばにいたんだ。
そっとだいちゃんの手をにぎり
そっとだいちゃんのほほをなめ
そっとだいちゃんのそばにもぐりこんで いのった。
おぼえている。
窓から月のひかりがやさしくやさしくふたりにふりそそいでいたこと。
朝陽がのぼって「ロイ、おはよう」と
熱のすっかりさがっただいちゃんが そっとなでてくれて目がさめたこと。
「ロイのおかげ。」と言ってくれたこと。

「思いだしたかい?じゃ、ごきげんよう。」
思い出はさらっと消えていった。

ロイ君はちゃーーんと知っていたことを思い出した。
ぼくは ここにいるだけでじゅうぶん役にたっているんだった!
これが<役に立つ>ってことを哲学した答え。
だから ロイ君は誰かの役にたちたいとは思わない。

ロイ君はまったく思いきりのよい犬なのだ。

平和な日々がいくつかつづき
ロイ君にとって 世の中が少々たいくつになったころ
(ぼくにとって世の中はぼくの思うままに動いているし
世の中って、ときどきたいくつに感じない? ・・・これはロイ君のひとりごと)
大事件がおきてしまった!

ロイ君じしんが 原因不明の病気にかかってしまったのだ!
これにはロイ君すっかりまいった。
からだが ねどこにべったりはりつき、
だいちゃんや家族の声が聞こえない。
だいちゃんや家族のすがたが目にうつらない。

でも みんながそばにいてくれることだけは しっかり感じた。
それはとてもいいものだな とロイ君は思った。
そして、今まで思いのままに生きてきたから
自分の運命をはじめてだれかにまかせてみることにした。
「さぁ、ぼくを どうとでもしておくれ!」

「うーーーん、これはこまったなぁ。」
いさぎよいロイ君のすがたを見て、考え込んだのは
なんと神さまだった。
そろそろロイ君のたましいをよびもどし
つぎの旅をさせようかと思っていたのに、これはいったいどういうことだ?
「よびもどすべきか、このまま生かすべきか?」
神さまが まようなんて とってもめずらしいこと。
そのめずらしいことが おきてしまった。
<まよったら もとにもどしてみる>
これが 神さまの考えかた。

神さまは きっぱりした方なのだ。

もちろん、ロイ君はみるみる元気になっていった。
たいへんな病気だったからそりゃ、時間もかかったけどね。
でも、お医者さんが思っていたよりはぜんぜん早かった。

「ああ、元気って気持ちいいな。」




ロイ君のひがないちにちは、こうして さらに つづいてく。
ときにたいくつで ときにしげきてきな いちにちたちが
つぎから つぎへと じゅんじょよく。

*おしまい*
©tukkin 2003.11

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