ムラリ

原案 ムラリ  文 つっきん
さてさて、ケーキを作りましょう。
ここは、ケーキ屋「ムラリ」です。
ムラリさんのケーキ屋です。
赤いチャックのシャツと、三角巾
白いエプロンが優しく朝日といっしょに輝いて
さてさて、お店の準備を始めましょ。

どれどれ、今日の予約は
10歳の男の子「ひゅうがくん」への誕生日ケーキ!

小麦粉、ハイ!
生クリーム ハイ!
バターも ハイ!
たまごも ハイ!
牛乳 ハイ!
いちごも ハイハイ!
お砂糖・・・お砂糖は?・・・あれ?

あらあら、困った。
お砂糖はどこ?

「お誕生日会に間に合わなかったら、どうするの?」
「せっかく、出番がきたのにさ」
「砂糖は何をやってるの?」
「砂糖がいなくちゃいけないの?」

みんな口々に言い始めます。
それは仕方がありません。
だって、みんなこの日をずっとずっと待っていたのですから。

「まぁまぁ、待ちましょう。きっと大丈夫。」
ムラリさんは、いたずらっ子のように、きゅっと笑います。
「誰かがひとりでもかけたなら、私のケーキにならないの。」

みんな、顔を見合わせて だまりこんでしまいました。

「ムラリさん、あれを 聞かせてよ。」
「そうそう、砂糖にも聞こえるように。
迷子になっていても あれが聞こえれば、だいじょうぶ。」

ムラリさんは、きゅっと笑って、ポケットから
小さな笛を取り出しました。

ラトゥルラ トゥルラ

・・・どうぞ こちらへ いらっしゃい
・・・どうぞ どうぞ おまちかね

・・・どうぞ こちらへ いらっしゃい

ラトゥルラ トゥルラ
ラトゥルラ トゥルラ

・・・どうぞ こちらへ いらっしゃい
・・・どうぞ どうぞ おまちかね

「あぁ、やっぱり いい音色。
とても、なつかしい お日様のにおいがしてきた。」
「土のにおい、水のにおい、牛のにおいもね!」アハハハハ。

ほら、みんなの顔が、ほころびます。
「ぼくはその笛の音を、遠い北の小麦畑で聞いたんだ。
刈り入れの前の日、これからどうなるのかなって、空を見上げてたときに。」
「私は、西のにわとりごやの中。たくさんの仲間たちとのお別れをしているときに。」
「東のいちご畑でね、太陽が、「ほんとうにきれいになった」って誉めてくれたそのときに」
「僕らは、北の広い広い牧場で。かあさん牛が、聞いたんだ。
そしてかあさんの体から絞り出される時に、あの笛の音についてお行きとかあさんが・・・。」

ラトゥルラ トゥルラ

・・・どうぞ こちらへ いらっしゃい
・・・どうぞ どうぞ おまちかね

「どうしても、行かなくちゃって。いつでも耳を澄ませて
笛の音をたどってきたら、ムラリへたどりついたのさ!」

「そうそう。旅に出るのは、とても疲れることだったけど。」
「そうそう。笛の音がいつも勇気をくれたのさ。」
「そうそう。とにかく、あとをついて 行かなくちゃって。」

ラトゥルラ トゥルラ

・・・どうぞ こちらへ いらっしゃい
・・・どうぞ どうぞ おまちかね

「旅をやめるわけには いかなかったよねぇ」
みんなが 大きく うなづきます。

「うふふ、そうでしょ?」

「ムラリさん、その笛は いったいなぁに?」
「聞きたい? 」

みんなの気持ちが「聞きたい」とひとつになりました。

「この笛は、私が 妖精だったころ・・・」

゜*.★・*.゜☆

「妖精!? ムラリさんが?」
「あら、ほんとうのことよ。」

そう、ムラリさんが 妖精だったころ
笛はおばあさまのものでした。

おばあさまといっても、妖精です。
おばあさまはケーキが大好きな人でした。

おばあさまの笛の音は 特別でした。
おばあさまが笛を吹くと 
おばあさまの必要な材料が集まってきて
それで作られたケーキを食べると
世界中が 光に満ちるようでした。
笛とおばあさまは、いつも一緒にいたのです。

ところが
おばあさまが 神様のおそばへ行ってしまうことになり、
笛は、とてもとても 悲しかったのでしょうね。
すっと どこかへ消えてしまったのでした。

「笛は、おばあさまと一緒に 神様のところへは行けなかったの?」
「笛は、まだ やるべきことが あったのではないかしら?
神様にしか、理由はわからないけれど。」

ムラリさんは、話を続けます。
「やがて、私は、人間の姿になって生きることにしたの。
人間って、笑ったり、泣いたり、怒ったり、楽しそうなんだもの。
ふふふ。

人間の姿になりたての、そう
子供のころには、笛の淋しげな音が ときどき聞こえていたのよ。
ただ、何の音だか思い出せずにいたけどね。
大人になるにつれ、だんだん人間に近づいてくると
音すら聞こえなくなって、私はがむしゃらに働いていた。
ところが、
ケーキ屋になろうと 心に決めたある夜のこと。
窓辺に、この笛が 突然現れたの。
そのとき、すべてがよみがえった・・・
そうだ!これはおばあさまの笛だ!って
妖精だったころのこと、おばあさまと笛のこと、
そして、おばあさまが神様のそばへ行くときにした約束。
いつか おばあさまに おいしいケーキを食べてもらうって。
笛は言ったわ。
約束を思い出してくれたんだねって。力を貸すよって。」

ラトゥルラ トゥルラ

・・・どうぞ こちらへ いらっしゃい
・・・どうぞ どうぞ おまちかね

この笛に導かれて集まってくれたあなた達。
今日のケーキには あなた達の力が、必要なの。

゜*.★・*.゜☆

「おはようございます!いやぁ、すっかり遅くなっちゃって。」
お店に、配達の人が入ってきました。
「ご注文いただいていた 砂糖です。間に合ったかな?
いやぁ、南の島からの船が嵐で 大変だったんだから。」

「おやおや、ご苦労様。ありがとう。」

ラトゥルラ トゥルラ

・・・どうぞ こちらへ いらっしゃい
・・・どうぞ どうぞ おまちかね

「あぁ、とうとうついたんだ!ここから聞こえてきたんだね、あの笛の音!
すっかり 迷子になっちゃった。」

砂糖の大喜びの声に、みんなどっと笑ったのでした。
さっきまで、あんなにいらいらしてたのにね。

「さぁ、みんな。しあわせを呼ぶケーキになってもらうわよ。
お砂糖さん、来て早々だけど、あなたの力がとてもとても必要なのよ。
人々の疲れをいやすのは、甘み。あなたよ。」

ムラリさんの手にかかれば
あっという間に オーブンから香ばしいにおいが立ちこめ
生クリームの甘い香りに店中が包まれます。

「仕上げは、いちごと、それから・・・」
ムラリさんは、ちょっと照れくさそうないちごを 10つぶ のせ
チョコレートのペンで
「ひゅうがくん おたんじょうびおめでとう」と
実になめらかなペンさばきで 書きました。

「ハイ、できあがり。」

゜*.★・*.゜☆

ひゅうがくんの おうちでは
ムラリさんのケーキが、食卓の中央で一段と輝いていました。
「10歳のお誕生日、おめでとう!」

お父さんや、お母さん、妹の声が ひゅうがくんを祝います。
ケーキを切りわけるお母さんの顔が、ほんのり不思議に光り輝きます。

「うわぁ、おいしい。」
「なんだか、いろいろな人が おめでとうって言ってくれてるみたいだよ!」

お母さんの笑顔が、さらに光に満ちたとき

「おかあさん・・・きれいだな。」
ひゅうがくんは 心からそう思いました。

゜*.★・*.゜☆

ラトゥルラ トゥルラ

・・・どうぞ こちらへ いらっしゃい
・・・どうぞ どうぞ おまちかね

ラトゥルラ トゥルラ
ラトゥルラ トゥルラ

ケーキ屋ムラリから、笛の音が聞こえます。
ムラリさんが 祈ります。

この笛に導かれてやってくる
自然の恵みは大切な仲間。

ラトゥルラ トゥルラ
ラトゥルラ トゥルラ

笛がならなくなるその日まで
私はケーキを作り続けるでしょう。
世の中に光が満ちあふれるように。


そして
おばあさまに食べてもらえるケーキができるその日まで。

ラトゥルラ トゥルラ

・・・どうぞ こちらへ いらっしゃい
・・・どうぞ どうぞ おまちかね




©tukkin2001.2

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