海も こんでる
文 つっきん

  ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ
ふかい 海の そこ

 ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ
小さな 魚

 小さな魚は、どんな色?
だれも、それは、知らないこと。
ここは しずかな くらい 海のそこ
光が少ししか、届かない。 

 ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ
小さな魚は、思う。
…ぼくの海は なんて こんでるの!  
 
小さな魚より小さい魚たち、ミジンコたちが ちらちらおよぎ
こんぶや わかめが ゆらり ゆらり からみつき
たこや、いかに、それから、それから?
おおきな まぐろ。もっと おおきな さめ。もっと おおきな くじら。
こんでいるけど 小さな魚は ひとりぼっち
…だけど、平気。

 小さな魚の友だち、黄色い魚。
はずかしがりやの 黄色い魚。
さびしがりやの黄色い魚。
いつも遠くの海から やってくる。
きまって夜にやってくる   

 黄色い魚がさびしがるから
ぼくは いつも 海の中で 踊ってみせる
くるくる くるくる
黄色い魚、ゆら ゆらり
 
黄色い魚がさびしがるから
ぼくは 大きな魚に食べられるわけにはいかない。
こんぶのかげにかくれる
石のように体をかためる
土の中にもぐる
どんな もんだい!

 ならんで いっしょに およぎたい。
 おんなじ海で、およぎたい。
 よし、こんや、黄色い魚の海へ ぼくは行く!
小さな魚の、いちだい決心。  

 夜の 海も こんでいる  
 夜になると うごきだす、見たこともない魚たち。
ぎらぎらした目が 小さな魚をねらう。
ぬるぬると、じめじめと。
にげて、にげて!  

つかまるわけには いかないぞ  
食べられるわけには いかないぞ  
おそろしい 魚たちに どんなに ひどい しうちをうけても  死ぬわけには、いかないぞ  

せびれや、おびれは  すっかりくたくた。
海の水が、こんなにしみて いたいだなんて!  
小さな魚は ちょっと思った。 …おもいきり 泣いてやりたいと

 ぽこん・・・  
とうとう あたまが 水面から出た  

 ここで、ぼくの海は おしまいなの?
 水は、海の水は、この先にはないの?  
黄色い魚は もっと とおくに うかんでる。
…なんて ことだ。とおすぎる

 ぼくの知らない、海があった!
黄色い魚の住む海に、ぼくは 行けない。
…なんて ことだ!

   黄色い魚 君の海も こんでいるんだね。
だってさ、ほら、いきが できない・・・  

とうとう、小さな魚は 力が つきた。
小さな魚が、黄色い魚だと思っていたのは きれいな三日月。

 月が悲しげに西の空へかたむき、 東の空を朝日が赤くそめはじめ  
やがて空が 白く、青くうつりかわると、  生まれてくる あたらしい さわやかな 朝。

 海岸を歩いてくるひとの かげ。
黄色いぼうしをかぶった男の子。

「あそこ!なにか 光ってる!」  
かけよってみると、それは なみにうちあげられた 小さな魚。
 小さな魚はぎんいろで、 うろこが太陽にてらされて、三日月がたくさんならんでいるかのよう。
 見たこともない、きれいな 魚。

「海も町の電車みたいに こんでたの? 」
 そっと、手のひらにすくい上げ、 男の子が、そう話しかけたとき

ぴくっ

「・・・? まだ いきてるよ!」
男の子は、うれしそうな声を上げて
誰も知らない 秘密の岩場へ、そっと小さな魚をつれてった。

「おうちへお帰り」  
ぴしゃん!  
小さな音をたてて、小さな魚は 海のそこへ 消えた。
 男の子の黄色い帽子が、ちらりと たしかに 見えた。

 ぽこ ぽこ ぽこ ぽこ
 小さな魚の、元気が もどった。
黄色い魚! 黄色い魚!  あれは、まちがいなく 黄色い魚!
 小さな魚は、しっかり 感じた。からだいっぱいの よろこびと約束。

黄色い魚は ほんものの ぼくの友だちだってね。
きっと いつか、もういちど 必ず 会える ってね。

                                        ©tukkin 2000.12

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