つくえといす
文 つっきん


太郎のつくえといすのお話。

あれは太郎がもうすぐ1年生になる日のこと。
家具屋から 父ちゃんが太郎のために買った つくえといすが届いた。

     つやつやの 木のつくえ
     つやつやの 木のいす

         「どうだー。やっぱりいいな。」「うん。」
         「しっかり勉強するんだぞ。」「…うん。」(声ちっちゃーい)


家具屋でこのつくえといすを見つけたときのことだ。
父ちゃんが
「お!これいいじゃないか。そのわりに安いな。これにしよう。」
と言ったとき、それまでなんにも言わなかった店の主人が
「かしこまりました。」と言った。
太郎は見た。

店の主人の顔が「あー、せいせいした!」とばかりにニヤついたのを。

そして 太郎はピッカピッカの1年生になった。

         「おめでとう!」
         「おめでとう!」

ところが。

つくえはいすのふんぞり返ったところが大キライだった。
いすは引き出しがいっぱいあることを自慢しているつくえが大キライだった。

ようするに、つくえといすは 仲がわるかった。

つくえといすのけんかときたら、
太郎が宿題をしようとしてもおかまいなし。

いすは太郎を乗せたまま ふん! とつくえにそっぽ向く。
つくえは 本棚の教科書やら、ひきだしのクレヨンやらぶんなげてくる。

      いす:「いたっ!なにしやがる!」
     つくえ:「ふん。おまえがツンツンしてるからだ!」
      いす:「バーカ バーカ バーカ!」
     つくえ:「バカっていう方がバカなんだ、バーカ!」

      太郎:「もう いいかげんにしてよぉぉぉ!」

太郎はすっかりつくえといすから逃げだした。
あとにつづけと ランドセルも教科書もクレヨンもえんぴつも逃げだした。

つくえといすは けんけんごうごう けんかをつづけた。
ぜいぜいするまで けんかをつづけた。

父ちゃんと母ちゃんは
「せっかくつくえといすを買ったのに。」
と ぼやきながら
「そんなとこで寝そべって宿題しない!」
と言うから、テーブルで宿題をやることにした。

「あぁ、もう消しゴムのかすはちゃんと捨てる!」
と言うから、ちゃんとまとめて捨てるようにした。

「まったく おかしな子だ。」
と、そう言われても、あのつくえといすじゃぁ…。

太郎はつくえといすで宿題する気はさらさらなかった。

こんくらべは 太郎の勝ち。

とうとう、父さんはおごそかに言った。
「太郎、おまえのつくえといすは ものおき行き だ。」

太郎はせいせいした。おもわず顔がニヤついた。

頭の中に、あの家具屋の主人の顔がぼわっとうかんだ。
わかったぞ。
あの家具屋は知ってたんだ。
つくえといすがけんかするってこと。

こうして
つくえといすは まっくらな物置小屋にとじこめられた。
目がなれてくると、そこにはいろんなものがいることがわかった。

せんぷうき、石油ストーブ、よじれたほうき、針の動かない置き時計、
スコップ、さびたのこぎり、しんのないランプ、
古びたおいぼればかりがぎっしりと
どれもこれも ちん と いる。

つくえといすは それでもけんかをやめはしない。
ギーギー、ガタガタ とっくみあい。
あんまりガタガタ、ギーギーうるさくて、
赤ら顔ののこぎりが さらに顔を赤くして言った。

「いつまで けんかしてんだ!」
「いつまでって、今 何時だよ!」

置き時計が遠くを見つめて ぽっそり言った。

「さぁてね。時はすっかり止まっておるで。」

よじれたほうきは、神経質なおばばだった。
「ほこりがたってしまいますっ!ここではどうぞお静かに。しーーっ…。」

つくえのぼやき。
「まったく暗い。せっかくランプがあるってのに!」

「いやぁ、しんもなけりゃ、一滴のなたね油もありません。」

いすのていあん。
「なんったって空気が暗い。元気に歌でも歌おうよ!」

「こうですかぃ?」

スコップとのこぎりがバイオリンのように…

    ギ・ギ〜〜〜、ギリギリリ〜〜〜〜…
    
    コキッ、コキッ、コキッ

合わせて肩の骨をならすのは、せんぷうき。

その音色ときたら、背中に冷や水。ゾゾゾゾ〜〜〜。

「や、や、やめてくれぇぇぇ!」

「もう!お静かにったら、お静かにっ。」

ほうきおばばはしかめっつらで、あたりのほこりをぱっぱとちらす。

    げほっ、げほっ、げほっ

ほうきおばばは、ニヤリと笑ってこう言った。

「ひとつ教えてあげよう。
このものおきから選ばれて外へ出されたものは、二度とここへ戻ることはない…。
おそらくね…、ばらばらにこわされて、ただのくずになるんだよ…。」

…ひぃぃぃぃ…

すっかりおそろしくなった つくえといすは
ぴたりとおとなしくなってしまった。

うっかり小声でけんかしようものなら、
ほうきおばばが
「こほん、お静かに。選ばれますぞい。」とニヤリと言う。

おぉ、こわ。

物置小屋の中というのは、なにやら魔法でもかかっているのか。
なんにもおこらず しーんとして、時がすっかりとまっているようで
やがて外の世界があったことすら忘れてしまう…

そんな魔法が。

つくえといすも すっかりかんねん。
もうこうなったら眠ってしまおうと、目をつむることにした。


ひやひやどきどき、どきどき、どきどき…
どうか、選ばれませんように、選ばれませんように。

つくえと いすは あれからずっと物置小屋にいる。
…はずだった。

ある日、物置小屋の扉がガラガラとにぎやかに開き、
わさわさと人間達の声がしたかと思うと

つくえといすを ガタガタと動かしはじめた。

ヤ、ヤ、ヤメテクレーーーー。

そんな叫びは ガタガタという音にかきけされ、
逆にあっという間に、おそろしいことになってしまった。

空からギラギラとにらみつける太陽。
つくえといすの身も 心も おおいにふるえあがった。

    ああ。どうしよう。

ほうきおばばの言葉が地の底からよみがえる。

「このものおきから選ばれて外へ出されたものは、二度とここへ戻ることはない…。
おそらくね…、ばらばらにこわされて、ただのくずになるんだよ…。」

    ひぃぃぃぃ…。

「まさる、これがおまえの父ちゃん 太郎の使っていたつくえといすだ。
これを使うといい。」

と、父ちゃんの声がした。

「なつかしいなぁ。どうだ、まさる。しっかりやれよ。」

と、ふとく はっきりした男の声がした。

「うん。」

と、返事をしたのは…だれだ?太郎か?

つくえといすは、そろってぽかんとなった。目をパチクリともいう。
目の前にいる3人の人間…。

   父ちゃん → いつのまにやら じいさんに。
   太 郎 → むかしの父ちゃん似のおやじ。
   まさる → …だれ?

なにがいったいどうなってこうなっているのだ?


まさるは、ことし 1年生になる 太郎のむすこ。
つくえといすが物置小屋で過ごした時間は
けっして止まっていたわけじゃない。
時計をいくつならべてもおいつきはしないほど
とっぷり時間がたっていた。

と いうことは?

つくえといすも まだまだ がんじょうだったけれど
ほぉら、よく見てごらん。

    つくえ には 白いひげが長々と。
    い す には せもたれ(ここが顔)に深いしわ。


さいわい…。
父ちゃん、いや じいちゃんになった父ちゃん、も
太郎、いやいや 父ちゃんになった太郎、も
ふってわいたようにしか見えない まさる、も

ひげと、しわには 気づかなかった。

ふぅ。
とりあえず、
どうやらただのくずにされるふんいきは 今のところ ない。

「なんだ、ほうきおばばにいっぱい喰わされた!」

さてさて、つくえといすは 顔を見合わせてはっとした。

    ふん。

「お〜や、白いひげなどはやしおって、どこの何様のおつもりだい?」

「はは〜ん、そらみたことか。しかめっつらばっかりしておるから
おまえさんはしわだらけになったんじゃ。

「やれやれ。いばりぐせがいくつになっても直らぬとみえる。
たいした、たまげた、あきれるねぇ。」

「なんだと!引き出しはかざりじゃないぞ。やくたたずのノーなし!」

「あいかわらずの 短気もの。」
「そちらこそ。あいかわらずの へんくつりん。」

「なにぉ!?  はぁぁ…。」
「なんだとぉ!?ふはぁぁ…。」

あれあれ? 息切れしぃしぃ、まぬけな けんか。

一部始終を見ていたまさるは、だんだん腹が立ってきた。

まさるのことなんか おかまいなしで
まさるのことなんか 見向きもしないで
けんかばっかりしている つくえといすに
ほんとに ほんとに 腹立った。

とうとう…。
まさる火山の大噴火。

「うるさい、うるさい、うるっさーーーーーい!!!」

どっかーん。

まさるが いすの わき腹をけり、
よろけた いすが つくえにどしっと体当たり。

    いすの あしが 折れた。
    つくえのかどが かけた。
    
倒れたいすが まさるの足をふんづけた。

まさるが つくえを
つくえが いすを
いすが まさるを

見た。

    うあーーーー!しまった…!!

何ごとかと どかどか現れた まさるの父ちゃんのかつての太郎。

「おまえたちーーー!!いいかげんにしないかっ。」

空気が一瞬静まり返り、次の瞬間 パーンとはじけた。

「思い出したぞ。このつくえといすは 仲がとっても悪かったこと!」

さぁて、どうしてくれようか…。
ここは やっぱり おしおきでしょう。


    ガラリ ガラガラ。


「ほほぉ。またここへ戻ってくるとは これはまたとない奇跡。」

ずずーっとお茶をすすりながら、ほうきおばばは
横目でちらりと つくえといすを見た。

    なんだ、ほうきおばば まだ いたんだ…。

つくえが 思わず ニーーーッと笑った。
いすも  思わず ニーーーッと笑った。

    ふん。

「やれやれ…どうせ、また けんかでもしたんでしょうよ。」

物置小屋はもっとシーンと静まり返る。

「奇跡は何度も起きるもんじゃないってことも お忘れなく。」

    ほうきおばばも あいかわらず。


    ガラガラ ピシャッ。ガチャッ。

鍵のしっかりかかった 物置小屋の向こうで
太郎とまさるの声がする。

「まさる。腹が立っても ものにあたっちゃいかん。」
「わかった。」
「それから、勉強は ちゃんとしろよ。」
「…わかった。」(声ちっちゃーい。)


話はこれで おしまいだ。
ともかくこれは、
つくえといすとしてはちっとも役に立つことのなかった つくえといすのお話だ。

*おしまい*
©つっきん. 2005.9.4

おはなしTOPへ

つっきんの童話屋さん
゜*.★・*.゜☆